フィギュア 複製 入れ替わり 2026.07.11

【閲覧注意】"自分のフィギュア"を作った配信者Tに、いま何が起きているのか

空っぽの椅子

そして数日前。告知も、予告も、何もなかった。突如として、ゲリラLIVE配信が始まった。

だが、画面に映し出されていたのは、Tではなかった。部屋の中央――いつも彼が座っている、あの椅子。そこに鎮座していたのは、3Dプリンターで刷り上がった、あの「コピー」のほうだった。

微動だに、しない。ただ、まっすぐ、カメラを見ている。完成した、白い"彼"が。

本人は、どこにもいなかった。呼びかけへの反応も、物音ひとつもない。無人の部屋で、樹脂の複製だけが、こちらを見つめ続けている。その映像が、無言のまま、ただ流れ続けた。

チャット欄は、恐怖で埋め尽くされた。

「え、待って。Tは?本人どこ??」

「Tくん!!いるなら反応して!!お願い!!」

「これガチのやつだ。誰か、住所知ってる人いない?通報して」

「無理もう無理見てられない でもチャンネル閉じられない」

「あいつ、さっきから一回も瞬きしてない」

そして――配信は、断ち切られるように、ぷつり、と切れた。

私はその晩、Tの所属事務所と、公開されていた連絡先すべてに、取材の打診を送った。返事は、来なかった。動画の更新は途絶え、SNSも沈黙した。ファンは本気で彼の安否を案じ、一部では失踪や事件を疑う声さえ上がり始めた。私も、正直、最悪の想像をしていた。これは、うちで扱う「本物」のほうかもしれない、と。

――なんだ、そういうことか

数日の、重い沈黙の後だった。彼のチャンネルに、突然、一本の動画が投稿された。

「【ネタばらし】行方不明騒動について、全部話します」

再生した瞬間、私は、拍子抜けした。

画面の中のTは、けろりとした、いつもの笑顔だったのだ。「いやー! 皆さん、大変お騒がせしました! 結論から言いますと……全部、仕込みの演出でーす!」

そこからは、実に鮮やかだった。声を段階的に加工して"人間味"を抜いていった音声処理の手順。フィギュアの向きを毎回わずかにずらして撮影した、"間違い探し"の仕込み。無人のLIVEで自分が消えたように見せた、合成とカット割りのタネ明かし。テンポよく、楽しげに、彼は「怪異が起きているように見せていた舞台裏」を、洗いざらい解説してみせた。

コメント欄の恐怖は、一瞬にして、歓声に変わった。

「なんだよ!!完全に騙されたわww 心配して損した!」

「クオリティ高すぎだろ。これもう立派なホラー作品」

「よかった……本当に、生きててよかった……(笑)」

張り詰めていたものが、音を立てて緩んでいくのがわかった。私も、深く息を吐いた。そうだ。そうだよな。こんなことが、現実に起きるはずが、ないのだ。

見事なメタ企画だった

改めて振り返れば、この一連の流れは、恐ろしくよく設計されていた。

「背景で自分の複製が、ただ作られていく」という、誰もが油断する日常の絵面。そこに視聴者発の"発見"というかたちで少しずつ恐怖を積み上げ、無人のゲリラLIVEでピークを作り、数日の沈黙で不安を膨らませきり、最後に本人の笑顔でカラリと回収する。恐怖と、安堵と、種明かしのカタルシス。その配合比が、絶妙だった。

この一ヶ月、私たちは、たった一人の配信者の手のひらの上で、見事に踊らされていた。背景の複製に怯え、彼の安否を本気で案じ、そして種明かしに胸を撫で下ろした。その感情のすべてが、彼の計算だったのだ。上質な嘘というものは、時に、現実よりもずっと豊かな体験を人に与える。騙されるのも、悪くない。Tが仕掛けたこの壮大な悪戯に、私は一人の記者として、素直に脱帽したい。

"演出の天才"、T。彼のこれからの活躍に期待して、この記事の筆を置くことにする。

――おあとが、よろしいようで。

取材・文/ミソサザイの巣