直接会って話を聞けたのは、この二人だ。ただ、似た体験は、ネット上のほうにむしろ多く残っていた。ここからは、私(記者)が実際に見つけた投稿を、そのまま引く。まとまった量の書き込みがあったものを選んだ。
まず、匿名掲示板の、地域の噂を集めるスレッドより。投稿は昨年11月。
匿名掲示板より(地域の噂スレッド・昨年11月)
帰り道でさ、眼帯した女の人に道きかれたんだけど「あなたは本当にそっちを選んだんですか」って言われて意味わからんかった。こっちも急いでたから適当に流したけど、あれなんだったんだ。口裂け女みたいな話だけど普通に丁寧な人だったし怖くはない。ただ後味だけ変。
補足。道きかれたって書いたけど、よく考えたら向こう別に道に迷ってる感じじゃなかった。俺が「わからないです」って言ったら、そうですか、って一回だけ頭下げて、それで終わり。引き止めもしないし、しつこくもない。むしろこっちが立ち去るのを待ってるみたいだった。で、角曲がってすぐ振り返ったらもういない。あの人、最初から俺に道教えてほしかったわけじゃなくて、あの一言だけ言いたかったんじゃないかって、あとからちょっと思った。考えすぎかもだけど。
このスレッドには、投稿にぶら下がる形で「それ自分もある」「眼帯の人ってなんなの」といった短い反応がいくつか続いていた。書き手同士に面識はなさそうだった。
もう一件、個人ブログの記事より。福岡県内在住とされる書き手が、日常の出来事としてかなり長く綴っている。投稿日は今年の1月。文章はほぼそのまま引く。
個人ブログより(福岡県内在住とされる書き手・今年1月)
昨日の帰り、団地の入口で眼帯の女性に呼び止められた話をしておきたい。時間は夜の九時前くらい。仕事で疲れていて、早く帰りたかった。エントランスの手前まで来たところで、「お忙しいところ、すみません」と声をかけられた。振り返ったら、二十代後半くらいの女性で、左目に白い眼帯をしていた。
こちらが身構える暇もないくらい、話し方が丁寧だった。「夜分に申し訳ありません」「もしよろしければ」と、一言ごとに前置きが入る。最初は勧誘か何かだと思って警戒したけれど、何かを売るわけでも、署名を求めるわけでもない。ただ、この辺に前はもっと古い建物があったはずだ、というようなことを聞かれた。私はこの団地に十年住んでいるが、そんな建物の記憶はない。知りませんと答えると、「そうですか。失礼しました」と、深くお辞儀をされた。
用件は、たぶんそれだけだった。彼女はそれ以上何も言わず、来た方向へ静かに歩いていった。追いかけるような気持ちにもならなかったし、怖いというのとも違う。ただ、部屋に戻ってから、じわじわと引っかかってきた。人に道や場所を尋ねるとき、あんなにきちんと、何度もお辞儀をするものだろうか。まるで、そうするように誰かに教えられて、その通りにやっているみたいだった。動作の一つひとつが、決められた手順をなぞっているように見えた。
気味が悪いというより、うまく言葉にできない違和感が残っている。だから、忘れないうちにここに書いておく。もし同じような人に会った方がいたら、教えてほしい。
この書き手は、女性の丁寧さに対して「決められた手順をなぞっているようだった」と書いている。ただ、本人はそれを違和感として書き留めているだけで、それ以上の意味を読み取ろうとはしていない。読み返しても、深追いした様子はない。