証言を集めていくと、いくつか共通点が浮かんでくる。会釈をすること。丁寧語を崩さないこと。相手の返答をきちんと待つこと。そして、こちらが応対を返した直後に、唐突に立ち去ること。宮城、大阪、福岡と地域は散らばっているのに、この所作だけがそっくりだ。ネットの書き込みには場所のはっきりしないものも多いが、そこで語られる振る舞いも、やはり同じ形をしている。年齢や背格好の証言に多少のばらつきはあっても、この部分は驚くほど一致している。
こうした「同じ姿の何かが各地に現れる」という語り口自体は、それほど珍しいものではない。ひとりかくれんぼのように、手順や作法だけが人から人へ受け継がれていく怪談もある。近年ネットで広がる話には、そういう「型」が先に共有されていくものが多い。眼帯の女性の話も、その系譜のどこかに置けるのかもしれない。
ただ、一つだけ、はっきりさせておきたいことがある。これだけ目撃されていながら、彼女に襲われた、危害を加えられたという報告は一件もない。追いかけられた、脅された、金品を要求された——そういう話も出てこない。ただ声をかけ、丁寧に応じ、去っていく。それだけだ。恐怖の対象になりそうでいて、実際には誰も傷つけていない。
その振る舞いは、まるで誰かに教わった通りをなぞっているようにも見える。決められた段取りを、決められた順番でこなしているような。——もっとも、これは考えすぎかもしれない。夜道で見知らぬ人に丁寧に話しかけられれば、誰だって落ち着かない。細部が揃って見えるのも、後から証言を並べた私がそう感じているだけかもしれない。都市伝説というのは、そうやって形を整えていくものでもある。
そう自分に言い聞かせて、私は一度、この件から離れようとした。ただ、最初の証言集めの段階で、一箇所だけ、どうしても手が止まった部分があった。あの掲示板の投稿にあった、女性の言葉だ。「あなたは本当にそっちを選んだんですか」。夜道で見知らぬ相手に投げかける言葉としては、あまりに奇妙なこの一文に、私は心当たりがあった。