眼帯 目撃情報 未解決 第3話/全4話 2026.07.17

消えた演者を追って——全国から相次ぐ「眼帯の女性」目撃情報(第3話)

前話までのあらすじ

眼帯の女性の奇妙な一言は、十年前の小劇団の実験演劇『視差』の台詞だった。役柄は左目に眼帯をした女性で、所作まで目撃談と一致する。だが観客は三日間で二百人足らず。拡散の入口も見当たらず、一つの役が各地に同時に立っている理由も分からない。私は、その役を演じたただ一人の主演俳優に会うことにした。

消えた演者を追って

主演俳優の連絡先をたどるのには、思いのほか時間がかかった。劇団が解散したあと、彼女は演劇の世界からすっかり離れているらしい。当時の関係者にあたっても、「もう連絡は取っていない」という返事が続いた。最終的に、共通の知人を何人か介して、ようやく話を聞ける段取りがついた。

指定されたのは、平日の昼下がりの、あまり客のいない喫茶店だった。窓際の席で待っていると、時間ちょうどに、物静かな女性が現れた。当時の舞台写真で見た面影はあったが、ずいぶん印象は落ち着いていた。名刺を渡し、当時のことを聞かせてほしいと伝えると、彼女は少し困ったような顔をして、「もう、ずいぶん前のことなので」と前置きした。

『視差』の話を切り出すと、返事までに間があった。覚えてはいる、という。ただ、細かいことはあまり、と言って、そこで言葉が続かなくなる。私が台本の台詞——「あなたは本当にそっちを選んだんですか」——を読み上げると、彼女は、水の入ったグラスに伸ばしかけた手を、途中で止めた。

「……ええ。そういう台詞、ありましたね」。声のトーンは変わらなかった。ただ、それきり、彼女はしばらく黙り込んだ。三秒か、四秒か。店内のBGMがやけに大きく聞こえるくらいの沈黙だった。それから、「よく覚えてらっしゃいますね」と、静かにこちらへ聞き返した。質問に、質問で返された格好だった。

演劇をやめた理由をたずねてみた。はっきりした答えは返ってこない。「いろいろな事情が重なって」というような言い方で、彼女はそれ以上を語らなかった。当時のほかの出演者について聞いても、「連絡は取っていないので、わからないです」と、同じ言葉を繰り返す。何かを隠している、というより、その話題そのものからそっと距離を置こうとしているように見えた。

私は、質問の仕方を少し変えてみた。舞台の写真を何枚か持ってきていたので、テーブルに広げて、これはあなたですよね、と確かめた。彼女は写真をのぞき込んで、少し間を置いてから、「ええ、私です」とうなずいた。眼帯をつけた自分の姿を、彼女はしばらく見ていた。「こんな顔をしていたんですね、あのころ」。他人事のような言い方だった。写真の中の自分を、うまく自分だと思えていないように見えた。

好きだった役ですか、と聞くと、彼女は返事に困った様子で、「好き、というのとは、少し違いました」と答えた。それはどういう意味か、と重ねて聞いても、うまく言葉にならないようだった。「やりたくてやった役では、たぶんなかったんです。でも、やることになった。決まってしまった、というか」。決まってしまった、という言い方が引っかかって、私はそこを聞き返した。彼女は少し慌てたように、「言葉のあやです」と付け加えた。