眼帯 目撃情報 未解決 第2話/全4話 2026.07.16

その言葉の出どころ——全国から相次ぐ「眼帯の女性」目撃情報(第2話)

前話までのあらすじ

左目に白い眼帯をした女性が、夜の路地で人に丁寧に声をかけ、相手の返事を待って、ふいに立ち去る——そんな目撃談が全国で相次いでいた。宮城、大阪、福岡、そしてネットの書き込み。所作は驚くほど揃っている。誰も傷つけられてはいない。ただ、掲示板に残された奇妙な一言、「あなたは本当にそっちを選んだんですか」に、私は心当たりがあった。

その言葉の出どころ

「あなたは本当にそっちを選んだんですか」。この言い回しを、私は以前どこかで目にしていた。すぐには思い出せなかったが、引っかかりだけが残っていた。しばらく手元の資料や古い記録をあたって、ようやく行き当たったのは、一冊の演劇の台本だった。

十年ほど前に活動していた、ある小劇団の公演記録である。劇団の名前はここでは伏せるが、地方都市を拠点に、数年だけ活動していた小さな団体だ。その公演の一本に、『視差』という作品があった。実験演劇、と当時のチラシには記されている。

上演は三日間。会場は大きなホールではなく、客席が百に満たない小劇場だった。記録によれば、三日間の総来場者は二百人に届いていない。決して評判を呼んだ公演ではない。チラシの配布も、劇場周辺のいくつかの店と、劇団関係者による手配りが中心だったようだ。当時のチラシには、こう刷られていた。

FLYER

『視差』公演チラシ(惹句)

『視差』——同じものを、二人はちがう位置から見ている。あなたが今見ているそれは、本当にあなたが選んだものですか。

宣伝文句としては地味な部類に入る。動員数からしても、広く知られた公演とは言いがたい。今この作品を覚えている人は、ごく限られているはずだ。

台本を確認すると、劇中に、例の台詞があった。主要な役の一人が、相手役に向かってこう問う場面だ。「あなたは本当にそっちを選んだんですか」。掲示板の投稿にあった言葉と、一字一句、同じだった。てにをはの一つも違わない。

もちろん、これだけなら偶然で片づけることもできる。芝居の台詞が誰かの記憶に残り、何かの拍子に口をついて出た。そういうことは、ないとは言えない。だが、その台詞を口にする役柄というのが、白い眼帯をした女性だった。台本のト書きに、はっきりそう書かれている。

SCRIPT

『視差』台本ト書き(抄)

左目に眼帯。物腰は丁寧。相手の返答を待ってから、ふいに立ち去る。

私は、目撃談で繰り返し語られていた所作を思い返した。会釈。丁寧語。相手の言葉を待つこと。唐突な立ち去り。役柄の設定と、全国の証言が、細部まで重なっていく。偶然にしては、揃いすぎている。