眼帯 目撃情報 未解決 第4話(最終話)/全4話 2026.07.18

216人の行方——全国から相次ぐ「眼帯の女性」目撃情報(最終話)

その台詞を、口にしてもらえますか。私がそう頼むと、Cさんは少しためらってから、背筋を伸ばし、正面を向いて、こう言った。

「あなたは本当にそっちを選んだんですか」

私は、宮城の会社員のことや、あの掲示板の投稿にあった言葉を思い出していた。同じ台詞だった。てにをはの一つも違わない。Cさんは、自分が全国の目撃談とまったく同じ言葉を口にしていることを知らない。彼女にとっては、ただ十年前に一度だけ演じた役の、なぜか覚えのある台詞にすぎなかった。私は、そのことを彼女に告げなかった。

Cさんは今、演劇とは関係のない仕事をしている。家庭があり、子どもがいて、普通に暮らしている。彼女に限らず、あの日のオーディションに落ちた216人は、それぞれ別の土地で、別の生活を送っているはずだ。会社員、主婦、まったく違う職業についた人。誰も、あの役を舞台で演じてはいない。演じたのは、あの審査室での、たった一度きりだ。

217人が応募し、選ばれたのは1人。残る216人は、選ばれなかった。ただ、その216人は全員、あの日、審査員の前で、この役を一度だけ演じている。眼帯をつけ、渡された場面に目を通し、あの台詞を口にした。そしてその後、誰ひとりとして、この役を舞台で演じることはなかった。演じる機会は、二度と来なかった。

彼女たちは今、どこで、何をしているのか。あの日、審査室で一度だけ口にした言葉を、今も覚えているのは、216人のうち、何人いるのか。そして——全国の夜道で、丁寧に会釈をし、相手の返事を待ってから、あの台詞を口にして立ち去っていく女性たちは、いったい誰の代わりに、そこに立っているのか。

私には、まだ答えがない。

取材・文/ミソサザイの巣

本作はフィクションです。作中の人物・団体・地名・出来事はすべて架空であり、実在のいかなるものとも関係ありません。